以下の11項目の、コーチングを行う際に必要とされる能力水準は、日本メンタルコーチ 連盟(JMC)が今日のコーチングのプロフェッショナルと認めるコーチが用いているスキルやアプローチについて、より理解を深めるために開発されました。
これらの項目は、あなたがこれまで受けてきたトレーニングを、日本メンタルコーチ 連盟(JMC)が期待するコーチ育成のための専門トレーニングのレベルと、照らし合わせる際の基準として役立てることができます。これらの能力水準は最終的にJMCの資格試験制度の基礎となりました。能力水準は論理的に組み合うものをグループ化して、4つのカテゴリーに分けられています。それぞれのグループや個々の能力水準は、すべてコーチとして満たすべき核となる不可欠の資質であり、どれも等しく重要で、優劣はありません。
(A)基盤を整備する
01.倫理指針とプロフェッショナルとしての基準を満たしている
コーチとしての倫理と基準を理解し、すべてのコーチングの場面で適用する能力
- 日本メンタルコーチ連盟の行動基準(日本メンタルコーチ連盟の倫理規定 第3節のリストを参照)を理解し、自身の行動の中で示している
- 日本メンタルコーチ連盟の倫理指針(リストを参照)のすべてを理解し、従っている
- コーチング、コンサルティング、心理療法、その他支援の専門家の、職業としての違いを明解に伝えている
- どのような支援情報が利用可能で、どのようなときに必要であるかの知識があり、クライアントが必要なときに他の専門家を紹介している
02.コーチングの契約を確立する
コーチング特有のやりとりには何が必要とされるかを理解しており、
コーチングの進め方と関係性について、見込み及び新しいクライアントと合意を形成する能力
- 倫理指針とそのコーチングの関係性ならではの要因(例えば具体的な進め方、費用、スケジュール、必要ならば含まれる他の対象者)を理解した上で、クライアントと適切な話し合いができる。
- コーチとクライアントとの関係性の中で何が適切で何が適切でないか、何が提供され何が提供されないか、また、クライアントとコーチそれぞれの責任について合意に達している
- 自身のコーチングの方法と、見込みクライアントのニーズとがきちんと合致しているかどうかを判断している
(B)関係性を共に築く
03.クライアントと共に信頼と安心感を作り上げる
相互に尊敬と信頼が継続する、安全で支援的な環境を生み出す能力
- クライアントの幸福や未来について、真の関心を示している
- 常に個人としての真摯さ、正直さと誠実さを表している
- 明確な合意を取り、約束を守っている
- クライアントの物の見方、学び方、個人としての在り方への敬意を表している
- クライアントの新しい振る舞いや行動に、リスクや失敗への怖れが含まれていたとしても、クライアントを支え、継続的なサポートを提供している
- デリケートで新しい領域に立ち入る際には、クライアントに許可を求めている
04.コーチングを行う際のコーチの在り方
開放的で柔軟で自信に溢れる態度を以って、クライアントと自然に培われた関係性を築き、そこで感覚をフルに開いている能力
- コーチングを行っている間、その瞬間に共に在り、柔軟性を持って、クライアントの変化に合わせて軽やかに対応している
- 素直に直感に従い、それを信じて行動する。「直感に従え!」
- 知らないことにも開放的で、リスクを取っている
- クライアントに機能する多くの方法を検討して、最も効果的な瞬間に選択する
- 軽やかさとエネルギーを創り出すために、効果的にユーモアを使用している
- 自信を持って視点を変え、コーチとしての関わり方の新しい可能性を試すことができる
- 強い感情を扱う際にも確信を持って対処し、自己管理ができ、クライアントの感情に圧倒されたり絡め取られたりしない
(C)効果的なコミュニケーション
05.積極的傾聴
クライアントが願望として語っている意味を理解し、その自己表現をサポートするために、クライアントが語っていること及び語っていないことに、完全に集中できる能力
- クライアント本人とクライアントの持っている筋書に注意を向けて聴くのであって、コーチがクライアントのために用意した筋書に注意を向けて聴くのではない
- クライアントの関心事、目的、価値観、そして、何が可能で何が可能でないのかについての思い込みを聴き取る
- 言葉、声のトーン、ボディランゲージを聴き分ける
- クライアントが述べていることを明解にし、理解を確実にするために、要約、言い換え、繰り返し、おうむ返し等を行う
- 感情、物の見方、関心、信念、示唆などを、クライアントが表現することを勇気づけ、受けとめ、探索し、強化する
- クライアントの考えや示唆を束ね積み上げていく
- 「要するに何が言いたいのか」ということや、クライアントのコミュニケーションの本質を理解し、長い説明をさせるよりは、クライアント自身が要点にたどり着くのを助けている
- 決めつけやこだわりを捨て、クライアントが次のステップに進むために発散することを促したり、状況を「クリア」したりすることができるようにする
06.人を動かす質問
コーチング関係およびクライアント本人が、最大の効果を得るために、必要な情報を明らかにする質問ができる能力
- 積極的傾聴とクライアントの視点への理解を踏まえた質問をする
- 発見、洞察、約束、あるいは行動(例えば、クライアントの想定を超えるものなど)を引き出す質問をする
- さらなる明解さや可能性、新たな学びを生み出すための、オープンクエスチョンをする
- クライアントが過去に囚われたり、過去を正当化したりする質問ではなく、クライアントが望むものに向かって動くような質問をする
07.明確なコミュニケーション
コーチングのセッション中に、効果的に意思を伝え、クライアントに最も肯定的な影響を与える言葉を使う能力
- 共有し、フィードバックを行う際には、明解で適切で直接的である
- クライアントが望んでいることや、はっきりしていないことを、別の観点で解釈できるよう捉え直してみたり明確な表現に言い換えたりする
- コーチングの目的、テーマ、テクニックやワークの目的を、明確に提示する
- 適切で、クライアントに敬意を払った(例えば、性差別的でない、人種差別主義的でない、専門用語でない、業界用語でない)言葉を使用する
- 要点を描写したり言葉で表現したりするために、比喩や類推を使用する
(D)学びと結果を促進させる
08.気づきの創造
複数の情報を統合し、正確に評価して、クライアントの気づきを助ける解釈をし、それによってお互いに合意した結果を実現する能力
- クライアントの説明に捕らわれずに、クライアントの考えを捉えた上で、語られていることの範囲を跳び越える
- より深い理解、気づきと明解さのために、問いかけを引き出している
- クライアントの潜在的な考え、クライアント自身と世界への固定的な物の見方、事実と解釈との違い、思考や感情と行動の間の不均衡を、見極めている
- クライアントの行動する力を強化し、自分にとって重要な何かを達成するために、新しい思考、信念、視点、感情、気分などを発見することを助ける
- クライアントにより広い視野を伝え、クライアントが視点を変化させよう、新たな行動の可能性を見つけようとする決意を促す
- クライアントが、本人とその振る舞いに影響を与えている個々の要因(例えば、思考、感情、身体、背景)とその関係性を発見する助けをする
- クライアントにとって有用で意味があるやり方で、知見を伝える
- クライアントの「主要な強み」と「学びと成長の主要な領域」、そして、コーチングで扱うべき最も重要なことをはっきりさせる
- クライアントが語っていることと行動が一致しないと感じたとき、些細な問題と重要な問題、状況による行動と習慣化した行動を区別するように、クライアントに要求する
09.行動のデザイン
コーチング中でも仕事やプライベートの場面でも学び続け、お互いに合意したコーチングの結果に最も効果的につながるような新しい行動をとる機会をクライアントと共に作り出す能力
- クライアントが、新たな学びを実践し、繰り返し、深めるために、ブレーンストーミングを行い、クライアントが行動を決めることを支援する
- 合意したコーチングのゴールに結びつく具体的な懸念や機会に焦点を絞って体系的に探索することを支援している
- クライアントが、代替案や解決策を模索し、選択肢を吟味し、意思決定を行うことに取り組ませている
- クライアントの自発的な試みと自己発見を奨励することで、クライアントがセッション中に話し合い学んだことを、なるべく早く仕事や人生の場面に活かすように促している
- クライアントの成功と、今後成長する可能性について祝福している
- 新しいアイデアを生み出し行動の新たな可能性を見つけるために、クライアントの想定と視点に挑戦している
- クライアントの目指すゴールに合わせて様々な視点を提言したり、提示したりするが、それらに固執することはなく、クライアント自身で考えることに取り組ませている
- コーチングセッション中に、その場でサポートを提供し、クライアントが「今、行動する」ことを支援している
- 通常より少し頑張ることや挑戦することを奨励しつつ、クライアントにとって快適な学びのペースを守ることも奨励している
10.計画とゴール設定
クライアントと効果的なコーチングの成果につながる計画を作成し、維持する能力
- クライアントが課題及び、学びと成長が必要な領域に向き合うために、集めた情報を統合してコーチングの計画や成長目標を策定している
- 達成可能かつ測定可能で、具体的かつ達成期日のある成果を含んだ計画を作成している
- コーチングの進み方と状況の変化に適切に応じて、計画の調整を行っている
- クライアントが、学びのためのさまざまな支援情報(例えば、書籍やその他の専門家)を特定し、利用できるように助けている
- クライアントにとって重要な早期の成果とは何かを特定し、目標設定している
11.進捗と説明責任の管理
クライアントにとって何が重要であるかに着目し続け、行動を起こす責任をクライアントに委ねる能力
- クライアントが口にした目標に近づくよう行動することを、明解に要求している
- 前回までのセッション中にクライアントが決意した行動について尋ねることで、フォローしていることを示している
- 前回までのコーチングセッション以降、クライアントが何を行い、何を行わず、何を学び、気づいたのかを承認している
- それまでのセッションで得られたクライアントの情報を効果的に準備し、整理し、見直している
- コーチングの計画と成果、合意した行動の流れ、今後のセッションで扱う事柄を常にクライアントに意識させることによって、セッションとセッションの間もクライアントが目標に向かうことを支えている
- 元々のコーチングの計画を意識しつつも、振る舞いや行動を実際のコーチングの流れに基づいて変更することには柔軟である
- 話されていることの文脈を整えながら、クライアントが直面しているところと、クライアントが行きたいと願っているところの間を、俯瞰的なイメージを持って、行きつ戻りつすることができている
- クライアントの自己規律を奨励し、行動を言明したこと、その行動の結果、具体的なスケジュールに基づいた計画について、責任を持たせている
- クライアントが意思決定を行い主要な課題に取り組む能力を高め、また、自ら成長(フィードバックを得る、優先順位を決める、学習のペースを設定する、経験から学びを得る等)を求めるようクライアントの成長を促す
- クライアントが合意した行動を取っていなかったという事実にも、前向きに立ち向かう